【長文注意】フルブラウザからフルインターネットの時代へ


かつて、DDIポケットからリリースされたPHS端末「AH-K3001V(通称『京ぽん』)」は、貧弱な端末性能と機能ながら、スマートなフォルムと軽量なボディの中に、現在の端末から見れば"使える"背面液晶と、フルブラウザOperaを搭載していた。これに、当時のDDIポケットが提供していたパケット定額制(つなぎ放題1x)とあいまって、当時としては、"真の"そして"唯一の"フルブラウジング端末だった。

これは、当時(今も、かもしれないが)、大手通信キャリアに比べて圧倒的に貧弱なコンテンツしか提供できていなかったDDIポケットが、「フルブラウジングを可能にすれば、PC向けに作られた豊富なコンテンツを提供できる。しかも、PC向けコンテンツは、量が豊富でクオリティが高く、さらに無料のものが多い。」というもくろみを抱き、実現したものだった。(と思う。少なくとも一因。)

これに加えて、「(当時としては)高速なパケット通信の使い放題」に対して、フルブラウザは、明白なキラーコンテンツだったという点も大きい。そこにかっちりはまるインフラと事情を抱えていたという事も手伝って、京ポンは、実現した。この京ポンのおかげで、DDIポケットウィルコムへとつながるだけの力や意識を維持できたといっても過言ではないだろう。当時、(すでに気づいていた人はもちろんだが)多数の人が、DDIポケットの可能性やPHSの可能性に加え、DDIポケットだからこそできることがあることに気づいた。それが、ウィルコムにも受け継がれているようにも思う。

DDIポケットが、PHSインフラ携帯端末のキラーコンテンツであるフルブラウザを提供してから、ウィルコムに変わり、もう一つの明白なキラーコンテンツを提供する。それが、「通話定額(ウィルコム定額プラン)」だ。

そういう視点で見れば、ウィルコムは、「明白に需要があるがどこも実現できない」ことを実現してきたにすぎない。それが画期的であったことは間違いないし、16年間のインフラ構築・技術向上のなせる技だと思う。

現在にもどってくると、ウィルコムは、その主戦場であるデータ通信市場で、苦戦を強いられている。というよりも、負けている。W-OAM TypeGという技術によって、確かに「ブロードバンド」の要件を満たす速度(384kbps)を実現できてはいるが、それは一部エリアの一部の時間の話だ。

京ぽんに触れ、フルブラウザの恩恵を享受し、便利さを味わった人は、次のトレンドはフルブラウザだろうと思った。そして、全てのキャリアが、現在、フルブラウザを搭載していることからみても、それは間違いではなかった。しかし、決してそれは最も用いられる使い方ではない。料金の問題もあるが、それ以上に、携帯端末には、携帯端末用に設計されたコンテンツが最も使いやすいという事実と、モバイルのコンテンツが豊富になり、PC向けコンテンツを引っ張りださなければならない場合には、PCを引っ張り出した方が早いというほど、携帯端末のブラウザと携帯用に作られたコンテンツが豊富だということだ。また、通常の携帯コンテンツ用ブラウザからも、キャッシュ上限はあるが、PC用のコンテンツを閲覧できる。公式サイトトップの検索窓からキーワード検索をすれば、Googleが、「その他PCサイト」という形で関連するサイトを見せてくれるのも大きい。
京セラが、高機能な京ぽんを出さないのは、きちんとマーケティングをしているからなのだ。

また、携帯で手軽に携帯向けコンテンツを利用できるならばそれでいいという考えの人がだんだんとマジョリティになっていることも大きい。PCのキーボードを使ったことは無いが、携帯で小説を書いてみたことがあるという人がいる時代なのだ。そういう人にとってPCと携帯は、その背景技術は同一だが、まったく別物なのだ。WiiNintendoDSの違いのようなものだ。PC版mixiよりも、モバイルmixiの方が使いやすいという人も多い。<a accesskey="">など携帯向けインターフェイスの貢献も大きいのだろう。

詰まるところ、PC向けに設計されたコンテンツを携帯端末で見ることには、「無理があった」ということなのかもしれない。そして、その「無理」を解消するスキルや好奇心を持つ人はあまりいないという事なのだろう。
PC用のコンテンツは、それに適した端末で見ることが望ましい。そして、PC用のコンテンツは、サイズが大きいため、快適といえる通信速度への要求も厳しい。そこに、ウィルコムは訴求できていない。

つまり、もうおわかりかとは思うが、フルブラウザ、通話定額の次のキラーコンテンツは、フルインターネット端末だったということだ。それは、PDAではなく、ネットブックだった。PDAは、解像度も処理能力も中途半端で、フルインターネット端末とはほど遠い。やはり、ASUSEeePCのような小型・軽量で、それなりのスペックとUSBインターフェイスをもつPCが、現在のキラーコンテンツなのだ。これらがキラーコンテンツたるゆえんは、安価であることが第一だが、省電力で小型で定額で高速なイーモバイルの存在が大きい。時代のキラーコンテンツキラーコンテンツとして売り出したのが、イーモバイルだった。あのインセンティブの額は異常だとも思うが、しかし、イーモバイルのやり方は、イーモバイルが出来て、ほかのキャリアには出来ないことだった。つまり、ウィルコムフルブラウザを出したこととほぼ同じ意味合いのことをしているのだ。

しかも、携帯電話として売り出すわけではなく、携帯世代は、PCを持っていない人も多いため、ウィルコムフルブラウザを出したのとは意味合いが全く違うように捉えられ、一般客や、PC世代の2台目需要にもマッチしている。
(それでも、月10万契約では、展開速度としては遅いと思うが。)

ウィルコムは、そこら辺をわかっていてか、WILLCOM D4を出した。500gちょいの端末を出したことは画期的かもしれないが、一般の人に受け入れられる価格ではないし、通信速度でも無い。あれを次世代PHSで、しかも安価に出したなら(端末代100円とか)売れるとは思うが、ウィルコムの体制的には無理があるだろう。

ウィルコムにとって問題は、現行規格PHSの通信速度が、(今となっては)遅いということでも、TypeGインフラが広がっていないことでも無い。まして、今純減していることでもないし、カーライルの動きが不穏なことでもない。

ウィルコムにとって問題は、今のキラーコンテンツを今すぐ提供することが出来ない以上、いかに早く(しかも体制的に無理なく)それを提供できるようにできるか、という点と、次のキラーコンテンツをどう捉え、それを提供できるようにどう進めるか、だ。

ドコモは、i-modeというキラーコンテンツを、auは、着うたなどのキラーコンテンツを、J-PHONE(現ソフトバンク)は、写メールというキラーコンテンツをそれぞれ見つけて提供して成長した。そして、ウィルコムは、フルブラウザと制限のない通信・通話というキラーコンテンツ(通話についてはまだキラーコンテンツなので、純増しているということだろう)を提供し、イーモバイルは、(安価な)ネットブックと高速・定額通信によるフルインターネットというキラーコンテンツをつかんでいる。

次はなんなのか。それを一つ示したのが、iPhoneであるし、Androidだ。iPhoneXGP対応にするのは難しいように思うが、XGP×Androidは、何とか可能なようにも思う。しかし、Androidは、ドコモが来年出すという情報もあるし、ウィルコムの現状ではそれに先んじるのは難しいだろう。

次世代PHSは、理想的な環境で20Mbps、実行速度は5Mbpsほどという予想もあるが、仮にそれが事実だったとして、速度と料金については問題が無くなるだろう。では、端末はどうなのか、WILLCOM D4を安価に提供するのだろうか。

もう一つの問題は、基本的に384kbpsの速度が安定して出れば、PC版コンテンツでもほぼストレスなく見られるという点だ。これくらいなら、ネットワーク容量の限界値が低いマクロセルネットワークでも速度を維持できるだろう。
そういう風に考えると、単に速度が速く、制限が無く、十分なエリアのインフラができあがったとしても、現状のイーモバイルに対して大きなアドバンテージがあるとはいえない。
イーモバイルが破綻することなく、エリアを十分広げたとすれば、通話定額も出来て、しかも端末の性能もウィルコムと比べれば全然高いわけで、ウィルコム定額プランの代わりにそちらが選ばれても不思議ではない。

現状、通信キャリアが抱える問題は、「インフラをどう作り上げるか」から、「インフラで何が出来るかをどう提案するか」に変わっている。もちろん、ウィルコムは、良いインフラを整えるだろう。だが、なんのためになのだろうか。M2Mなど、ビジネスとしてはいろいろ思いつくが、コンシューマー向けの新時代のキラーコンテンツは何も見えてこない。

もちろん、インターフェイスの改善と安定した高速定額通信は、あたらしいものを生み出すだろう。iPhoneAndroidのようなものだ。だが、それは果たして次世代のキラーコンテンツなのだろうか。

私のような凡人には、次のキラーコンテンツはわからない。SFでも良く見てみようか。

一つ思いつくのは、仮想現実技術と通信技術との組み合わせだ。たとえば、サングラスないしコンタクトレンズ型の携帯端末で、通話・音楽・ブラウジングはもちろん、GPSと併せて実際に見ている景色に仮想現実技術を組み合わせて表示し、道案内とかは便利そうだ。(同じく、仮想現実技術を使って、スカウター型端末で、見ている人の戦闘力を表示するアプリとかおもしろそうだw…あとは、QRコードを見たら、自動的にホームページやら画像やらが表示されるとか、野菜に付いてるQRコードをみたら、生産者からのメッセージが聴けるとか、商品を見たら、Amazon価格.com楽天の商品レビュー(平均値)がその場に見えるとか、おお、いろいろ便利&おもしろそうだ。)

XGPは、うまくいけば間違いなく良いインフラになる。通話のエリアがやや心許ないが、XGPが整えば、IP通話ということも考えられなくはないだろう。そこらへんはどうとでもなる。しかし、次世代のキラーコンテンツが全く突拍子もないもので、しかもそれが海外で生まれたとしたら、XGPは対応できるのだろうか。

そんなことを思いつつ、眠くなってきたので、眠る。しかし、スカウター型端末で、戦闘力表示アプリは、ちょっとほしい。「▲戦闘力5(ゴミ)」とか表示されたらおもしろい。


※追記
バッテリ技術の問題が解決しない限り、これらの実現は不可能であることを考えると、やはりしばらくの間、キラーコンテンツは、UMPCによるフルインターネットか、iPhoneAndroidのような新世代スマートフォンなのかもしれない。であれば、ウィルコムは両方に訴求できるはずで、ウィルコム的には問題ないのかもしれない。